1、「争族」にしない終活(行政書士 永森勝幸)


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永森勝幸行政書士

相続全体の5%以上が「争族」!?


高齢化社会の進展により年々死亡者は増え続け、最近は120万人を突破しています。こうして発生する相続のうちの約1%(1.2万件弱)が、共同相続人間において遺産の分割協議がまとまらず、家庭裁判所に調停を申立てています。司法介入が必要な紛争のうち、裁判所が関与するものは2割程度しかないとの考え方(二割司法)を根拠とすると、「調停申立数の4倍は紛争が発生している」といえます。すなわち、相続のうちの約5%(6万件)が司法介入の必要な「争続」となっていると考えられます



二割司法とは弁護士業界に於いて認識されている言葉であり、国民の2割ほどしか司法サービスを受けていないということ。つまり、法律トラブルが発生した時に弁護士を利用することがなく、泣き寝りしている人が全体の8割もいたということです。司法介入の必要はないが、相続人間で意見が対立してしまうこともあります。これらも含めると、統計に表れない相続トラブルは、毎年相当数発生しています。調停、司法介入の他、統計に表れないものも含めると、一般的には、全体の約1割が争続になっているとされています。争族が発生すれば、家族の絆に亀裂が入り、嫌な思いをしてしまう、また、家族間の断絶にまで発展してしまう危険性を孕んでいます。  



平成27年の最高裁判所の調査報告書より作成データ写真
平成27年の最高裁判所の調査報告書より作成

 

世間でよく相続トラブルのことを耳にするけれど、「自分には関係ないわ一部のお金持ちの話でしょ?」と思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、このような考えは間違いです。遺産相続トラブルは、遺産総額5,000万円以下の一般中流家庭で多く起こっています。                                           

 

裁判所の司法統計によると、この10年間で相続トラブルは1.4倍になっており、遺産分割事件が起こった中での遺産の額は、1,000万円以下の件が約3割、1,000万円超5,000万円以下の件が約4.4割となっており、合計7割以上の件では遺産総額が5,000万円以下なのです。

 

対して1億円を超える相続案件における遺産相続事件が意外とが少ないことがわかります。遺産相続トラブルは実際には普通の中流家庭で非常に多く起こっているのであり、決して他人事ではありません。


仲が良くても遺産相続トラブルは起こる


 

「うちは兄弟みんな仲がいいからトラブルになんてならない」「子どもたちは、きっと譲り合うと思う」とやはり相続トラブルとは無縁だと考える方が多いのではないでしょうか。家庭裁判所に遺産分割調停を依頼したり、訴訟提起する殆どは、元々は仲の良かった兄弟、家族なのです。一度亀裂を生じてしまった関係を修復するのは困難なものです。遺産相続トラブルがあると遺産分割協議がまとまらず、時間だけがいたずらに過ぎてゆき、相続税の控除も受けることもできなくなり、相続財産を活用することもできず、只々相続人である兄弟、家族が疲弊してしまう結果になってしまいます。



 

※相続税控除を受けるためには、相続開始から10か月以内に遺産分割協議書を添付して相続税の申告をしなければなりません。かけがえのない兄弟、家族の絆を断ち切らせることのないように、相続は万全の対策を取ることをお勧めいたします。


2.争族事例


遺産の中に不動産がある  Aさんのケース


 

Aさん(50代 女性)は3人兄弟の末の妹で、上に兄2人がいます。親が亡くなったので、兄弟3人で相続をすることになりました。遺産はそう多くなく、実家の土地建物とその他の預貯金が少しあるだけでした。長男は親と同居していたのですが、「僕が継ぐから、家は全部僕がもらう」と言い出しました。次男とAさんは驚いて「法定相続分があるからそれはおかしい」と言いましたが、長男は聞き入れません。次男は「実家は古いから、売却して現金で分けるのが最も公平」と言っています。Aさん自身は、別に売却しなくてもいいので、長男が代償金を払ってくれたらいいと思っています。そこでAさんが、不動産の評価書を取得すると、3,000万円でした。Aさんがその評価書を持って兄のところに持っていき、3分の1である「1000万円を支払って」と言うと、兄は逆上して、「そんなに高いはずないだろ!」と言い出して、評価額は「2000万円だ」と言いだし、相続税路線価の価格や他の不動産業者で査定金額を持ち出して争ってきました。このように、三者三様の主張をするのでまったくまとまらず、結局遺産分割の調停、審判を経て、家は最終的に競売にかかりました。家は安い金額でしか売れず、長男も次男もAさんも疲れ果てただけで、手元にはほんの少しの現金が残っただけでした。しかも、兄弟3人の親類付き合いは完全になくなってしまいました。   


前妻の子供や認知した子供が現れる Bさんのケース


Bさん(50代 男性)は、父母がいますが、このたび、父親が死亡したので遺産相続をすをすることになりました。相続人はBさんと母親の2人だと思っていたので、半分ずつににすればいいのだから簡単だと思っていたのです。ところが、相続人調査をすると、父には離婚歴があり、前妻との間に1人子どもがとがわかりました。もちろん、Bさんが聞いたことのない人です。しかも、父は認知している婚外子も1人いることまで判明しました。このことは、母も知らなかったようで、大変ショックを受けていました。相続割合は、前妻も認知した子どももBさんも同じなので、Bさんは、遺産をこれらの人たちに渡さないといけません。しかし、遺産の内容は、Bさんの父母とBさんが協力して作ったものがほとんどなので、これらを「今まで会ったことのない前妻の子どもや認知した子どもに渡すのは、絶対に納得ができません。」とのこと。



親と同居して介護した相続人がいる    Cさんのケース


Cさんは長女で、長年親と同居していました。母親は身体が不自由になり、介護が必要になりましたが、なるべく自宅で過ごしたいと言うことで、Dさんが献身的に介護をしていました。母親は寝たきりだったため、介護の負担はとても重く、Cさんは働きにも行けませんでしたし、婚期も逃してしまいました。そんな中、母が亡くなって遺産相続の話が出ました。Cさんには、結婚して家を出ている妹がいましたが、妹は、「法定相続分がある。不動産は要らないから2分の1のお金を払ってほしい。」と言いました。Cさんは、自分は全てを捨てて今まで母親の介護をしてきたのに、結婚して好き勝手に暮らしている妹に同じだけの遺産を渡すことは納得できません。

妹は「同居していたんだから、生活費もお母さんの年金から出しているでしょ?むし

ろ、得してるじゃないの!」などと言って、遺産分割調停を起こしてきました。

結局、3年もめたあげく、Cさんの寄与分が認められましたが、Cさんが期待していたどの金額ではなく、法定相続分に少し上乗せしてもらった程度でした。妹とも絶縁状態になりCさんは孤独で、「私の人生は一体何だったんだろう」という思いになりました。


子供のいない夫婦 Dさんのケース


 Dさんは、夫と2人暮らしで、子どもはありません。お互いに初婚で前妻や前夫などの子供もなく、相続は単純だと思っていたので、遺言を用意することもありませんでした。そうこうしているうちに、夫が亡くなってしまいました。夫の両親は早く亡くなっていて、夫の兄も以前に亡くなっていたため、Dさんは、自分が相続人になるものだと考えいましたが、夫の兄の子ども(夫の姪)2人が現れて、「私たちが相続人になる」と言ってきたのです。Dさんは驚きましたが、代襲相続ということで、この場合Dさんと姪2人が遺産を分け合わないといけないことがわかりました。今まで夫の姪などほとんど会ったこともなかったので、Dさんは納得できない思いでしたが、法律的な権利があるということで、Dさんは姪2人に遺産を渡さざるを得ませんでした。夫と2人で積み立てた財産をどうして姪に渡さないといけないのか、Dさんは今でもも納得できない気持ちを抱いています。


不平等な遺言がある   Eさんのケース


 Eさん(60代 女性)は、3人兄弟の末っ子です。先日、母親が亡くなったために、兄4人が相続をすることになりました。遺言を見ると、母親は長男に遺産の大部分である実家の土地建物を分与することにしていて、弟とEさんには、100万円程度預貯金しか残さない内容となっていました。Eさんと弟はショックを受け、しばらく

 悩んでいたのですが、やはり納得ができないので、遺留分減殺請求をすることにしました。兄に対し、遺留分侵害額請求権の通知書を送ると、兄は逆上して、「非常識だ。母親の遺志に背くのか?」などと言ってきました。

Eさんも後に引けないので、遺留分減殺調停を起こして、話合いをしました。調停委員の説得もあって、遺留分に該当する800万円を支払ってもらうことができましたが、Eさんと兄は、その後絶縁状態になってしまいました。法事も一切一緒にすることがなく、年賀状のやり取りすらしなくなりました。Eさんは、「お金をもらえたことには納得していますが、兄と交流がなくなったことにについては残念で、遺留分減殺請求をしたことがよかったのかどうか、正直なところろよくわからない思いです。」と残念な結果になってしまいました。